一般に、上司の役割の一つとして認識されているのは、「部下を育てる」ということです。
しかし、部下をコーチした人には経験があると思いますが、自分の仕事を後回しにして一所懸命指導しても、なかなか思うように動いてくれない人がいるものです。
それどころか、同じ失敗を連発して、その尻ぬぐいに時間を取られることもあります。
反対に、何も言わなくても自分のやるべきことが分かっていて、段取りよく仕事を進めて成果を上げる部下もいます。
仕事というものは、時間と手間をかければかけるほど質が上がっていくものですが、「人を育てる」という点では、これは当てはまらないようです。
「人を育てる」ということについて、日垣隆著「ラクをしないと成果は出ない」で、非常に合理的な考え方が示されています。
日垣氏は「部下をコーチするなど、やめられるものなら、やめたほうがいい」
と、喝破しています。常識に真っ向から反対する考え方ですが、一理あります。
日垣氏は、文章の書き方、営業のやりかたといったものを、成果を上げるレベルまでコーチングしようとしたら、エネルギーの大半を吸い取られてしまうので、人にコーチしなくてはならない状況は、極力避けて通るのが賢明であると述べています。
そもそも、コーチというものは業務の片手間にするものではなく、優秀な専門のコーチに任せるのが、成果を上げるための近道と明言しています。
確かにその通りだと思います。私も過去の経験から「育つ人は自力で育ち、育たない人は育てようとしても育たない」という持論になっています。
私は部下には仕事を全面的に任せ、「分からないことがあればすぐに相談して」と伝え、実際に相談に来たら全力でサポートするという方針をとっています。
こうしておくと、育つ人は自ら創意工夫をして、新しいことにも挑戦して、成果を上げ続けます。
「人を育てる」という考えを思い切って手放すことで、時間とエネルギーを最も重要な仕事に振り向けることができるのです。